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第三話 運命を握る二人の男性

last update 最終更新日: 2025-11-02 08:00:25

時間が経つのは早い。ラビリンスと出会ってから3年の月日が流れ、今に至る。お転婆姫と言われ続けた王女を心配していたミミコットはラリアの存在を知り、ホッと心のつかえが取れていく。自分が引き下がる事で二人の空間を守れるのなら、満足だったのだろう。布で隠された二人の気配を感じながら、嬉しそうの微笑む彼女がいた。

「姫様……心配させてはいけませんよ」

ラリアの前ではこの呼び方を控えていた。彼は救護室のもう一つの顔を知らない。だからこそ、何も言わずに教えずに、ただラビリンスに委ねていく。第四王女としての立場と相好の戦乙女としての姿、それ以上に大切にしてもらいたいのはラビリンスの気持ちそのものだった。

精神的なショックを引き起こすラビリンスを見たのは久しぶりの事だった。仕えているからこそミミコットは何でもお見通し。そこまでラリアに翻弄された証拠でもある。病気の時でもラビリンスは表情を変える事はない。弱みを見せたら自分の立場が消滅してしまう、そんな危機感を隠し持っている事実を知っていた。

ミミコットは奥の部屋に辿り着くと全ての服を脱いでいく。そして本来の彼女を示す戦闘服に身を隠した。正体を隠す為に彩られた化粧を落とし、キュッとお団子に括っていた髪を解き、一つに結わえていく。

「彼がいるのなら、ここはあれを使うしかないな」

彼女は誰の耳にも届かないよう結界を展開していく。ラリアの力がどれ程のものか分からない以上、普通に使用するのは危ないと感じた。全てを知られては上手く立ち回っている現在を棒に振る事になりかねない。それ以上にラビリンスの立場を危ういものにしてしまう。そんな事を考えていると、彼女の足元から魔法陣が広がると体を飲み込んでいく。

これは『転移変性』失われた古代魔法の一つ。それを使用しているミミコットはもう一つの体へと変化していく。何も出来なかったあの時の彼女はいないーーそこにいるのは列記とした聖騎士の彼女だった。

ラビリンスとの関わりが彼女の力を覚醒へと導くものになっている。それまでは普通の女性として生き、生活をしていた。共通の特性を持っている者同士の魂が近づくと共鳴と言う現象が発生される。ラビリンスにとって共鳴は必要不可欠だった。どういう原理でそれが起こるのかを知らなかった二人は自分達が信用と信頼を深め合う事で能力同士が支え合う、その根本を知っていく。ミミコットにとっては初めての経験だった。その姿を手にした彼女は女性の枠を超え、もう一つの性別を手にしていく。

救護室はラビリンスとリンクされるであろう人物の集合組織『コキュートス』と呼ばれている。その名前を知っている者はいるが、本当に存在しているかは不明、そう位置づけされているのが彼女達の居場所だった。

表では繋がっていないように見えても、全ては繋がっている。

全ては刻の辛苦を引き起こす為にーー

白い光に包まれたミミコットはラビリンスの為に行動を引き起こそうとしている。大切な第四王女を守る為、全ての立場から解放する為に、自分自身の存在の欠片を全て消し去る。想いを隠すと、彼女の心に同調するように、新たな道を作り出し、導いていった。

□□

「……ん」

あれから3時間が経過した。その間、起きる素振りのなかったラビリンスは風に撫でられると、全身を震わしていく。微かな声が漏れると、ゆっくり瞼が開かれていった。ぼんやりしている頭はなかなか動いてくれない。何が起こっているのかを把握しようと、体を起こし、視野を広げていく。

「この人は……」

ラビリンスは椅子に座ったまま目を瞑っているラリアを発見すると、記憶の引き出しをあけていく。ボンと頭から湯気を出しながら自分がどういう状況に置かれているかを把握出来たようだった。

ラリアとの戯れを思い出すと、手の甲に熱が過ぎる。自分が意識を手放してからどれくらいの時間が経過したのだろう。それでもダイレクトに感じる彼の唇の感触に現実を受け入れられないラビリンスがいた。

「ちょっと……えーと、ラリア王子?」

「……」

どうやら眠っているようだ。ラビリンスが起きるのを待ち続けた王子は、初めての場所で疲れが溜まっていたのだろう。いつから眠っているのかは誰も知らない。ふう、と息を吐くとベッドから立ち上がっていく。

二人の存在を隠すように囲っている布を引き剥がすとここが何処なのかを知っていく。救護室には誰もいない。いつもなら誰かが残っているはずなのに、今日に限って、何の存在も感じられない。

二人っきりになってしまったラビリンスは、無理矢理起こそうとも考えたが、綺麗な寝顔を見ていると可愛そうに思ってしまう。ストンとベッドを椅子代わりにし、ラリアと向き合う。こんな静かな空間で他国の王子と二人きり、滅多として経験する事のないシュチュエーション。人を翻弄させようとする彼の相手をするのは嫌だが、眠っている状態なら苦痛すら感じない。

ラビリンスはトクンと自分の心臓が獣ように何かを訴えている、その微妙な変化に気付く事なく、静かにラリアの顔を見つめていたーー

ラビリンス中で何かが変わり始めようとしている。小さく身を隠していた魂の熱が徐々に全身に駆け巡る。普段のラビリンスなら気付くはずだが、何故だか気付く事が出来ない。それはラリアとラビリンスの魂がお互いを求め合っている証拠。ミミコットの時とは違った感覚の『共鳴』が始まっている証だった。

「どうしてかしら……落ち着く」

触れてもいない、話してもいない。二人の接点はこの無言に包まれた空間だけだった。それなのに、彼に甘やかされているような、抱きしめられているような違和感を受けている。ラリアを見つめる瞳に優しさと愛しさを滲ませながら、引き込まれていく。

そんなラビリンスを止めるように、足音が響いた。戻ってこないラリアを心配したミハエルが救護室へと入ってくる。眠っているラリアとその姿を見つめているラビリンス。異様な光景を目にすると時が止まったように目を見開いていった。

二人を守るように整えられていた場所はミハエルの介入を許し、招き入れた。初めて見たはずのミハエルの姿に懐かしさを覚えたラビリンスは首を傾げる。何処かで会ったような気がするのに、記憶には残されていない。

「ラリア様を迎えにきました。ラビリンス様も目を覚められたようでよかったです」

「……貴方は?」

「失礼しました。私はラリア様の護衛を務める騎士団団長のミハエルと申します。以後お見知り置きを」

動揺をする事なく真っ直ぐな瞳で語るミハエルを見て、気の所為で片付ける事にする。ラリアと共有した心地よさを邪魔された事は不服だが、仕方ない。そう思うと、ハッと自分自身に向かって恥ずかしさを感じていく。

まるで自分がラリアの事を気に入っているようで、ラビリンスは顔を真っ赤にしながら、気づかれないように表情を隠した。

ラリアとミハエルの存在がラビリンスの運命を揺らす重大な出会いだと気付く事はなく、刻は過ぎていくーー

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